コリン・ホルト・ソーヤー 『メリー殺しマス』

メリー殺しマス (創元推理文庫)
 クリスマス・シーズンを迎えた高級老人ホーム<海の上のカムデン>で、子どもたちによる合唱団が訪れた際に、ロビーのクリスマス・ツリーのところで入居者の女性が死体で発見されます。捜査のためにカムデンを訪れたマーティネス警部補は、例によってアンジェラとキャレドニアの二人の老女が素人探偵として事件に首を突っ込んだ挙句、危険な目に遭うことを危惧して彼女らが直接捜査に乗り出さないようにと一計を案じます。ところが、警部補の言葉を都合良く解釈したアンジェラたちは、入居者やスタッフ、果ては遺族にまで聞き込みをはじめます。揉め事を起こして周りから恨みを買っていた被害者を殺したのは、トラブルのあった相手なのか、それとも遺産目当ての遺族なのか。

 海の上のカムデン・シリーズの第6作。
 本作では、アンジェラとキャレドニアの行動を予想して、二人が不用意に犯人を刺激したりして危険な目に遭わないようにと、美味い具合に彼女らの好奇心を満たしつつ、捜査の現場からは遠ざけようと、二人が「ハンサムな警部補さん」と呼ぶマーティネス警部補が一計を案じます。ですが、警部補の言葉をいいように解釈した二人はいつもの如く事件に首を突っ込み、あろう事か関係者の一人一人、有力な容疑者になり得る人間に片っ端から接触するという暴挙を犯します。
 そして本作では、毎回の如く破天荒な二人の老女の行動や、個性的過ぎるほどに個性的な<カムデン>の住人たちとのやりとりのユーモアに満ちた面白さとともに、若者よりも「死」というものを間近に見据えた老人たちだからこその論理が語られます。そこには、シリーズの一作目でも語られていたように、死が身近であるがゆえに、一般的な社会規範の中とは少し異なった立ち位置を見つけてしまう年寄りたちの物悲しさがあります。
 犯人を含め、自分勝手で決して善人とは言えない被害者の遺族たちも、どこか憎みきれない人物として描かれる登場人物たちが、お馴染みの<カムデン>の住人たちと同様に魅力的に描かれた一作でした。