北森鴻『邪馬台―蓮丈那智フィールドファイル4』

邪馬台―蓮丈那智フィールドファイル〈4〉
 民俗学者の蓮丈那智のもとに、骨董商の雅蘭堂の越名の手を経てとある古文書が舞い込みます。阿久仁村という、ある時期を境に突然地図から消え、忘れ去られた村の言い伝えや出来事を記したと思われるこの文書から、那智は助手の三國とともに、突然消えた村の謎や、そこで起こったという惨殺事件の謎を解き明かしていきます。ですが、文書を持ち込んだ越名が突然不審な行動に出て、謎を解き明かそうとする彼らの前に立ち塞がります。

 蓮丈那智、冬狐堂、雅蘭堂など、各シリーズ主人公たちが総出演、さらには『暁の密使』との関連など、北森鴻の集大成であっただろう作品。
 蓮丈那智のシリーズにおいては、シリーズ初の長編第一作でもあり、邪馬台国論争という大きくて古いテーマを「廃村の遺伝子」という視点をひとつの切り口に加えることで、作中においての説得力を備えた考察を示しています。
 残念なことに、連載の終盤で著者が急逝したために、本作は未完の作品であったのですが、公私ともにパートナーであった浅野里沙子が、創作ノートなどを手がかりとして書き継ぐことで上梓された一冊。
 北森鴻自身が書こうとした終章がいかなるものであったのかを知る術はありませんが、ひとつの物語として、また、北森鴻のシリーズ作品世界にしこりのように存在していた謎に、しっかりと読者に受け入れられる終止符を打つことが出来たように思います。