大沼紀子『真夜中のパン屋さん』

真夜中のパン屋さん (ポプラ文庫)
 カッコウのように子どもを他所に預けて育てさせる母親を持ち、その母が原因で学校でいじめを受けている女子高生の希実は、真夜中に営業しているパン屋の暮林のところに預けられることになります。家庭に問題がありそうな少年、わけありのオカマ、変質者のような脚本家などが現れるブーランジェリークレバヤシに引き取られて生活するうちに、希実の頑なな心は次第に開かれていきます。

 いじめやネグレクトなど、社会や人間関係の重いテーマが描かれますが、読み口は良くも悪くもライトです。リーダビリティの高さと、各話で織り込まれる重いテーマを読み口良く、さらには後味もすっきりと仕上げている点は本作が広く受け入れられる大きな要因となっていますが、あるいはそれを食い足らなさと感じるかは、読者の嗜好によるところになるかもしれません。
 その意味で、それぞれの物語の落とし所は綺麗ごとの予定調和の範囲内とも言えますが、そんな綺麗ごとが通る場所があることが何とも心地良く思えた一冊。