綾辻行人 『奇面館の殺人』

奇面館の殺人 (講談社ノベルス)

 ミステリ作家の鹿谷門美は、自分と瓜二つの怪奇幻想小説作家の日向京助に頼まれ、これまでに自身が関わることになった事件の舞台を建築したのと同じ建築家の中村青司の「奇面館」での集まりに、日向のふりをして参加することになります。館の初代当主が集めた奇妙な仮面がコレクションされたこの奇面館では、今の主である影山逸史によって、それぞれに割り当てられた、鍵付きの仮面で顔を隠すことが義務付けられます。影山逸史が<もう一人の自分>を探すために、鹿谷を含め六人の客を集めた奇面館で、季節外れの大雪によって彼らは閉じ込められます。

 待望の館シリーズの第9作。
 本作は、時計館でピークに達したと言える詩美性や、暗黒館での空気を終始一貫して支配していた怪奇性は控えめながらも、ある意味館シリーズらしいシンプルでどこまでもフェアなパズラーものとなっています。そこでは、細かい描写や会話の中にちりばめられた手がかりを読み解き、フーダニットを追求することが私たち読者には求められ、存分にゲームの精神に満ちた作品世界となっていると言えるでしょう。
 全員が仮面をかぶり、素顔を見せない状況に、首を切られた死体という状況は、否が応でもひとつの方向性を指し示しているように思わされますが、それだけで終わらないのが本作が「綾辻行人館シリーズ」たる所以でしょう。地の文にも会話の文にも、至るところにちりばめられている手がかりから、ひとつひとつの「違和感」を拾い上げていく楽しみが、本作では味わえます。
 「中村青司の館」ということで、読者があらかじめ想定してしまう大仕掛けについても、そのからくりが実際に明かされる際の高揚感は健在ですし、登場人物たちが館に集い、事件の起こる、現実には存在不可能と思える「中村青司の館」の魅力は本作でも十二分に発揮されています。
 事件の真相については、大掛かりなトリックで読者の意表を突くという部分では必ずしも過去作品に及んではいないものの、丁寧な伏線による論理の積み上げが発揮され、著者の目論見通りにスッキリとしたパズラーものとなっていると言えるでしょう。
 本作の方向性があくまでもパズラーものに徹した分、館シリーズの次回作にして最終作となる作品が、どのようなものとなるのかが期待されます。