キャサリンコールター 『幻影』

幻影 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)

 3年前に失踪し、もう彼女は死んでいるものと心の中では諦めていた妻かもしれない女性が目撃され、保安官のディックスは動揺しながらも女性が目撃されたサンフランシスコへと向かいます。そして奇しくも同じサンフランシスコでは、半年前に殺された有名な霊能者の未亡人が、埠頭で危うく黒人の男性に殺されるところをFBI特別捜査官のチェイニーが偶然に助けます。

 前作で登場した保安官のディックスは、3年前に突然行方不明になった妻のクリスティは、自分や息子を置いて姿を消すはずがないという確信から、おそらく彼女は生きていない事を覚悟しています。それが突然現れた、妻に酷似した女性が何者かというのが、本作での一つの大きなポイントになっています。3年前に起こった事件の真相は救いのないものであり、残酷な犯罪者の身勝手な論理がそのまま現在のもう一つの事件につながるという構成も面白い物になっています。
 そして、ディックスの妻の事件と複雑な因縁が終盤になって明らかにされる霊媒師の殺害事件では、何といっても未亡人となったジュリアに執念深く迫る殺人者の男のキャラクターの不気味さが、本作でのもう一つのポイントと言えるでしょう。
 ただ二つの事件とも、犯人の設定の割に、その異常性が作中ではやや弱い印象も否めません。この側面においては、二つの事件を作中で並列して描いたことが必ずしもプラスには働かなかった可能性があるような気もします。二つの事件を結末部で結び付けるのであれば、一つの事件を集中的に最初に描き、中盤以降にもう一つの事件との繋がりとともに、二人目の犯人を浮かび上がらせる手法を取るという選択肢もあったかも知れません。