小林泰三 『大きな森の小さな密室』

大きな森の小さな密室 (創元推理文庫)
 森の奥深くの別荘で、そこの主人に会うために集った六人の客人たちが順番待ちをしますが、主人が一人になった昼食の時間に、密室となった部屋で殺人が起こる表題作をはじめ、全7編。

 犯人当て、倒叙安楽椅子探偵バカミスなど、テーマを設けた短編集。各編はそれぞれのテーマのためにだけ物語が構築され、それぞれのテーマの枠組みの中での論理が展開されます。
 収録された短編のうち、犯人当てをテーマに据えた表題作の「大きな森の小さな密室」、倒叙をテーマとした「氷橋」辺りまでは比較的オーソドックスなミステリとして、各編のテーマにそのまま向き合った作品と言えますが、バカミスをテーマとした「更新世の殺人」以降になると、かなり斜に構えたアプローチによる作品となっていると言えるでしょう。その意味で、本書の多くは、ただそのままテーマに向き合った本格ミステリと言うよりは、「バカミス」や「日常の謎」などのミステリの分野そのものをシニカルな視点で描き出した、ある種のパロディとなっていると言えるかもしれません。
 また、著者の他作品にも登場する個性的過ぎる名探偵たちが各短編に登場しており、彼らを始め登場人物たちの繰り広げるドタバタ劇は、どこかスラップスティックブラックなテイストを楽しめます。