有川浩 『三匹のおっさん ふたたび』

三匹のおっさん ふたたび

 以前訪問販売詐欺で高額商品を買わされたトラブルを義父の清一に助けられた、清田家の嫁の貴子が、それまでの自身を反省して出ることになったパート先での人間関係の悩みの顛末。万引きに悩まされる小さな書店で、臨時の助っ人をすることになった三人が目にする、悪質で罪の意識の薄い万引きの実態。受験を控えた早苗の父の則夫のもとに縁談が持ち込まれ、相手の女性が良い人であるにもかかわらず苛立ちを覚える早苗が祐希にした八つ当たり。ゲームセンターと地主の土地での、二つのゴミの不法投棄の事件。重雄の跡を継いで『酔いどれ鯨』で包丁を握る、「出来た息子」の康生が少年時代から抱いていた、背広を着て会社勤めをしていない父親ゆえのコンプレックスと、氏子と地域との関係が変化する中での地元の祭り。正義感を振りかざして放火犯を捕まえようとする"偽三匹"の暴走を危惧する三人。前作の続編としてこれら6編に加えて『植物図鑑』のスピン・オフ1編を加えた短編集。

 前作が痛快さに満ちて純粋に楽しめるエンタメ作品であったのに対し、本書では三匹の子供世代、孫世代の成長を描くと同時に、敢えてハッキリと正義だけが通ることのない社会問題にまで踏み込んだ内容となっています。そこでは題材として、「大人のモラル」が低下することでの問題を描いた故に、前作ほど単純な痛快さはありません。ですがその分、三匹たちの子ども世代、あるいは家族の成長ぶりや在り方といったものが際立ち、その姿に救われる思いをしたような気がします。
 子供が間違ったなら、間違っていることを指摘して正す大人がいることで、将来的にその子らが大人になった時のモラルが保たれるというモラルの連鎖が途切れた現代では、指摘されたからといって態度を簡単には正さない大人のモラルの低下が大きな問題となります。本書は、そうした身近に存在し得る問題意識がリアルな1冊と言えるでしょう。