伊藤計劃 『The Indifference Engine』

The Indifference Engine (ハヤカワ文庫JA)
伊藤計劃記録」「第弐位相」から短編に類する物を集めた作品集。ルワンダにおける部族間抗争と虐殺を下敷きにした表題作をはじめ、007へのオマージュである『女王陛下の所有物』(コミック)、同じく007の『ロシアより愛をこめて』("From Russia, with Love")をもじった『From the Nothing, with Love』、ゲームソフトメタルギア・ソリッドのファンフィクションにあたる『フォックスの葬送』、著者の第一長編である『虐殺器官』に後につながる『Heavenscape』と、コミック原作の『A.T.D:Automatic Death■EPISODE:0 NO DISTANCE, BUT INTERFACE』、どこかブラックなユーモアに満ちたSF『セカイ、蛮族、ぼく。』、ウィリアム・ギブスンブルース・スターリングの『ディファレンス・エンジン』新装版に寄せた円城塔との共作である『解説』、そして著者の未完の遺作であり、円城塔へと書き継がれることになった『屍者の帝国』の9編が収録。

 007やメタルギアなどのファンフィクションといった物にまで、伊藤計劃の世界を構築する"意識"が確かに感じられます。
 商業作品として完成されるに至らなかったものの中にも、『虐殺器官』や『ハーモニー』へと繋がる確かな足跡が記されていると言えるでしょう。
 また、『虐殺器官』『ハーモニー』と合わせた文庫のカバーデザインも、読者に与える「伊藤計劃の世界観」を邪魔せず構成する要素となり得る素晴らしい1冊。