戦闘妖精・雪風の主人公の過去譚であり、ネットワークの発達によって「パーソナルなマシン」ではなくなったPCを嫌い、あくまでも「パーソナルなマシン」を追求する主人公を描く『ぼくの、マシン』にはじまり、故・伊藤計劃との架空の対話という手法を用いて、「意識」「ネットワーク」「コミュニケーション」といったものへの著者の思考を展開した私小説的な風合いを持つ表題作まで、全6編。
表題作は伊藤計劃『ハーモニー』への、著者なりの考察であると同時に、ともに独自のポジションを確立しながらも、世代もスタンスも異なるがゆえに、同じ言語で語り合うことが出来たであろう伊藤氏への著者のスタンス表明をしているかのような、メタフィクション的一作。本作においては、夭折したSF作家の伊藤計劃との架空の対話という手法が採られており、「パーソナルなマシンではなくなったパソコン」に代表されるようなツール社会における、「意識」や「コミュニケーション」というものへの考察が、伊藤計劃の作品を介してなされています。
同時に、2011年の震災に始まる社会不安の中で、こうした圧倒的な自然災害や社会に対してSF作家が何を語るべきかという問いに対する著者のスタンス表明もなされ、著者自身は直接的に何かを語ることはないとしつつも、「圧倒的なリアルに対抗するには優れたフィクション」であるとの主張をしています。
これらのテーマは決して表題作のみにとどまるものではなく、本書に収録された他作品、あるいは他の神林作品の根底のどこかには存在しているものと言えるでしょう。一見すると雑多に未収録短編を集めたかのようにも思えますが、収録された全6編には一貫したものが感じられます。
本書は、ベテラン作家であると同時に、常に現代の読者に作品を上梓し続け存在感を持ち続ける著者の、これまでとこれからを俯瞰するものであるのかもしれません。