菅野彰 『帰ってきた海馬が耳から駆けてゆく 2』

帰ってきた海馬が耳から駆けてゆく (2)
 詰め込み過ぎなほどに盛りだくさんで、読んでいるだけで楽しい沖縄旅行の話、そして会津若松在住ということで、避けては通れなかっただろう震災後の非日常。年とともに派手になっていたらしい服装の話や野球観戦と何故か仮面ライダーで盛り上がる仙台旅行の話などがエッセイとして綴られます。
 震災を機に襲いかかった非日常や、その中で生活する精神状態などを淡々と、いつものトーンとは明らかに異なった記録として含まれるからこそ、馬鹿馬鹿しいほどに楽しい(部分を敢えてエッセイの題材に選んでいるという部分もあるのでしょうが)著者の日常のかけがえのなさも伝わります。
 楽しい部分は底抜けに楽しく、けれども震災後の非常事態によって、日常と非日常のギャップが実に生々しく記されます。そして本書では、流通や交通が復旧するとともに少しずつ戻る日常が、オンタイムでの記録といっても良い状況で伝わってきます。決して過度に劇的に描かれないからこその生々しさもそこにはあると言えるでしょう。