セバスチャン・フィツェック 『アイ・コレクター』

アイ・コレクター (ハヤカワ・ミステリ 1858)
 子供を誘拐してその母親を殺害し、設定した45時間あまりの間に父親が子供を捜し出すことができなければ子供を殺害し、左目を抉り取るという残虐な連続殺人・誘拐事件が起こります。「目の収集人」と名付けられた犯人を追う警察と、ある事件をきっかけに警察を辞めて新聞記者となったツォルバッハ。犯人の手掛かりを追ううちに、自身が容疑者として疑わしい状況に追い込まれたツォルバッハは、ある能力を持つアリーナという目の見えない女性に出会います。アリーナは「目の収集人」に出会ったことがあると言います。

 まず、いきなりエピローグ、405ページという表記から始まり、物語が進むにつれページと章を遡って最後に序章、あとがきになり、ページは1頁になるという構成の仕掛けが独創的な作品。この仕掛けが意味するものと、作中の登場人物のある能力とのリンクが明らかになる結末が圧巻です。
 だんだん若くなるページと章番号、そして減って行く章の頭に記された「最後通告の期限まで」の時間。過去の悲惨な事件や家族の問題で大きなストレスを抱える主人公の元刑事が、思わぬことから事件の容疑者として自身も警察に追われる中で、残虐なシリアルキラーを追跡するサスペンスとしても本作は良く練られた作品ではありますが、確かにそれだけでは読者に対する衝撃度では弱かったでしょう。
 それが、この構成による仕掛けが明らかになることで、物語そのものに別の面が開けて来ることを思えば、著者の意図の巧妙さを高く評価することができるでしょう。
 また、カットバックのような方式での場面転換・物語の展開がなされることで、ページと章を遡る構成が自然なものに思えるとともに、物語にある種のスピード感が与えられているようにも思えます。その辺りも含め、実に緻密な著者の計算が結実したものとして、本書は読むことができるのかもしれません。
 本作には続編も書かれているとのことですが、同じ仕掛けを二番煎じにすることができない事を思うと、次にどのような魅せ方で物語が展開していくのかにも期待が高まります。