サイモン・ベケット 『骨の刻印』

骨の刻印 (ヴィレッジブックス F ヘ 5-2)
 法人類学者としての仕事を再開したデイヴィッドは、警察からイギリスの最果てともいえる場所にある孤島で発見された、不審な焼死体の鑑定依頼を受けます。島を管轄する警察が大規模な列車事故に人員を割かれているため、たまたま近くに居た法人類学者のデイヴィッドは、殺人か自殺かを鑑定の依頼するために、舟でその小さな島へと渡ります。そこで彼が見たのは、ほぼ完全に燃え尽きてしまった遺体と、それにもかかわらず周りはほとんど燃えていないという、異様な光景でした。人体自然発火とも思える状況で発見された遺体は、果たして殺人なのか、自殺なのか、そしてどのような状況で燃えたというのか。嵐に見舞われた島では、本土との連絡すらままならなくなる中、不審火や新たな殺人までもが起こり、捜査をを快く思わない何者かがデイヴィッドたちに攻撃を仕掛けてきます。

 前作『法人類学者デイビッド・ハンター』では、主人公は閉鎖的な片田舎の村において、住人として完全に認められてはいないものの、その土地に居を構えており完全な余所者でもないという、いわばコミュニティの内部と外部の両方に属する立場にあったと言えるでしょう。それに比べると本作における主人公デイヴィッドは、完全にコミュニティ外部の、しかも招かれざる余所者として困難な立場で事件に巻き込まれることとなります。
 さらに本作では、嵐の孤島状態というある意味ミステリの定番とも言えるシチュエーションが演出されます。人間関係に関しても、捜査に当たるのは、新人警察官と人間性に問題のありそうな上司の警官、そして退職した元警官という微妙な立場の第一発見者を含め、3人しか警察関係者がいないという、かなりハードな状況が主人公サイドの捜査を制限します。本来ならば期待できる本土の警察の支援や、科学捜査のための機材なども十分に得られない上に、捜査を邪魔するマスコミ関係者や、デイヴィッドたちに良い感情を持っていない住人などが、事態を複雑にします。
 嵐の孤島という外界からの隔絶状況の中、島民のほとんどが敵にも思えるような状況で、何者かが明らかな害意が襲いかかってくる展開は、前作にもまして起伏に富んだものとなっており、作品のエンターテインメント性の高さを評価することが出来ると言えるでしょう。そして怒涛の展開が続く終盤の緊迫感の面白さは勿論、最後まで気を抜けない結末の落とし方など、とにかく「読まされる」作品。早期の次作の翻訳も期待したいところです。