絶版になった文庫の類を仕入れようと、店主の栞子とともに大輔は古書の市に行くことになります。その市で、栞子の母親と何やら確執があったらしく栞子のことも毛嫌いしている古書店主に出会います。入札の結果、狙ったものは栞子の母親とわけありな様子だった古書店が買い取ることとなりますが、中から一冊、ロバート・F・ヤングの『たんぽぽ日記』だけが抜き去られていたことで、栞子が犯人ではないかと名指しをされてしまいます(第一話 ロバート・F・ヤングの『たんぽぽ日記』)。以前ビブリア古書堂に、彼女の夫の本のことで相談して以来、顔見知りとなった坂口しのぶから、彼女が子供の頃に読んだ本を探せないかという相談を大輔は受けます。ですが、漠然と「タヌキとワニと犬が出てくる、絵本みたいの」としか記憶にない本のことは、あらゆる古書来歴に精通した栞子でも、さすがに特定することが出来ませんでした。そこで、しのぶと一緒に彼女の実家にその本のことを聞きに行くことになりますが、夫のことでしのぶは母親との間に溝を深めていました(第二話『タヌキとワニと犬が出てくる、絵本みたいの』)。栞子の母の同級生だという女性から、その家にある父親の蔵書のうちの一冊が盗まれたので、犯人を見つけて欲しいと頼まれます。かつて栞子の母が売ったというその本は、宮沢賢治の『春と修羅』の初版本でした。その家の蔵書には極めて状態の良い同じ本がもう一冊あり、敢えて汚れのある方の本を持ち去ったのは誰なのか。蔵書の処分を巡って対立している兄夫妻のどちらかが犯人ではないかと、栞子の母の友人である女性は言いますが…(第三話 宮沢賢治『春と修羅』)。
前巻で登場した栞子さんの母親の姿が、各話の中に少しずつ丁寧に織り込まれ、物語はゆるやかに、ですが着実に進んでいます。3冊目となる本書では、家族というものが全編で物語の根幹にあるテーマとして存在しており、各編の登場人物の家族の問題と、それを透かして栞子と失踪している彼女の母親、そして亡くなった父親との関係が描かれることになります。
勿論、古書来歴をガジェットとし、それに関わる人間の綾を解くという、シリーズの最初からの様式は本書でも踏襲されており、各編の読みごたえや読後感も、これまで同様に楽しめるものとなっています。作中でも描かれるように、古い本にはそれそのものに物語があり、それを手にする登場人物たちの心が重ね合わせられることで、物語には深みが出ていると言えるでしょう。
本書もこれまでの2冊と同様、各編安定したクオリティを持っていますし、シリーズ全体を一つの物語として読む連作短編集としても、今後がさらに気になる展開となっています。