紅玉いづき 『ようこそ、古城ホテルへ 湖のほとりの少女たち』/『ようこそ、古城ホテルへ2 私をさがさないで』

ようこそ、古城ホテルへ 湖のほとりの少女たち (角川つばさ文庫)ようこそ、古城ホテルへ(2) 私をさがさないで (角川つばさ文庫)
 追放された魔女のピィ、退官した美貌の軍人ジゼット、亡国の姫君のリ・ルゥ、わけあり稼業から足を洗ったフェノンの、帰る場所をなくした四人の少女の前に、青銀の少年が現れて「古城ホテル『マルグリット』の女主人になる気はないか」と持ちかけます。そして古城ホテル『マルグリット』に迎え入れられた四人のうちの一人を、年老いた女主人が審査をして、次代の新たな女主人を選ぶことが告げられます。

 児童向けのレーベルから発売された、著者にとって初のシリーズ作品。
 それぞれワケアリの四人の少女が、故郷を離れて不思議な古城ホテルの女主人としての新たな人生を始めるというものですが、キャラクター、物語設定などを含め、著者にしては割と一般的で、ファンタジー小説としても「普通」の路線を狙って来たなという印象。
 デビュー作『ミミズクと夜の王』をはじめ、これまでの作品では、童話的な空気を持ちながらも、あくまでもターゲットとする読者はティーン以上の大人を想定していたことを思えば、本作は対象とする読者に合わせて、平易な設定を持ってきたのかもしれません。個人的な印象としては、「児童書」というくくりであっても、上橋菜穂子荻原規子などの、本格的なファンタジーを大人も含めて読者として取り込んだ成功例を鑑みれば、そこまで対象年齢を下げることを意識せずとも良かったのではないかという気はしないでもありませんが、ファンタジー作品としては普通に楽しめる作品と言えるでしょう。
 第一作は、舞台となる古城ホテル『マルグリット』そのものに焦点が当てられ、四人の主人公が一歩を踏み出すという、シリーズ開幕としての意義が大きい作品となっています。次作以降でなされる四人の少女たち一人一人への掘り下げへの前段階として、本作ではそれぞれのキャラクター配置や世界設定の必然性が過不足なく描かれており、ファンタジーとしての面白さが分かり易く提示されています。
 そして、登場人物たちの苦しみや悔悛を描きながらも、落とし所はどこまでも前向きで力強い作品に仕上がっていると言えるでしょう。

 さらにシリーズ2作目、『ようこそ、古城ホテルへ2 私をさがさないで』では、元魔女のピィが魔山から放逐されるに至った事件があきらかにされる物語が描かれます。加えて特別編として、「稼業」を辞めたフェノンの過去に絡んでやって来た者たちとのいざこざが古城ホテル『マルグリット』に巻き起こす騒動を描く物語の二編が収録されています。
 第一作では比較的さらっと流されていた、それぞれ過去との決別と新たな人生での再生というテーマが、本書においては各論的な位置付けで掘り下げられ、登場人物一人一人の魅力を浸透させるという目的が果たされていると言えるでしょう。
 さらには、ともに事件を乗り越えるに従い、四人の信頼や絆というものが深まっていく過程も説得力を持って描かれます。