ゴマブッ子 『怖い女』

怖い女
 ブライダルジュエリー・ショップで店長をしている松田明日香は、彼を目当てに女性が群がる人気レストランのオーナーシェフに、「君の店で一番大きなダイヤモンドをプレゼントする」と言われ、その言葉が現実になるのを心待ちにして過ごします。ですが、彼目当てに店に来る女性客が絶えないことや、連絡しても中々返事が来ないことに苛立ち、明日香は店のブログにコメントを残す女性を排除すべく、リンクをたどって女性たちのブログに罵倒するコメントを次々に残します。

 本作では、自分の現状に満足が得られないゆえ他者に攻撃的になり、周囲が見えなくなる様が描かれます。連作短編集の形式を取り、一作ごとに主人公の女性の妄執が明確な形を持って読者の前に姿を現すことで、主人公だけではなく登場する全ての女性が持つ、何とも言えない女ならではの気持ちの悪さを浮かび上がらせた一作。
 かつて有名になる前の彼に会ったことがあるのを「運命」だと思いこんでいる女。元アイドルで必死に芸能界にしがみついている女。彼の店の見習いシェフとの交際に悩む女。自分のブログにひたすら食べたいものだけを羅列する女。一緒に食事をする仲間たち一人一人と自分の幸せを比べずにいられない野球選手と結婚した女子アナ。もしもあの時別の選択をしていたら…と後悔ばかりをする女。自分が不遇であることを感じるようになって別れた男に未練を感じる女。交際している男性に不満を感じつつも彼の子供を妊娠し、彼の優しさに気付くことのできた女。
 こうした女性たちの境遇に、時に怒りをぶつけ、時に自分に重ね合わせ、主人公は女性たちのブログに"メキハド"というハンドルネームでコメントを残します。
 好きな男を自分だけのものにするためにという妄執に取り憑かれた主人公は、どんどん歯止めが効かなくなり、仕事中もブログのコメント欄を追い続ける異常さを深めていきますが、その幕切れは意外なほどアッサリと訪れます。この唐突とも言える幕切れが本作におけるリアリティでもあり、また結末部で読者を突き放すことで生まれる虚無感を余韻としているとも言えるのかもしれません。