文月更 『猫かぶり嬢とにわか貴公子』

猫かぶり嬢とにわか貴公子 -箱入りメイドへ華麗な転落- (ビーズログ文庫)猫かぶり嬢とにわか貴公子 -シンデレラの華麗な誤算- (ビーズログ文庫)
 成り上がりと馬鹿にされることに我慢がならないで、完璧なお嬢様を演じるための努力を怠らず、日々努力を重ねた結果、才色兼備の完璧なお嬢様の猫を被る生活をするシャーロット。ですが突然、貿易商を営む彼女の父親の舟が沈んで、財産も身寄りもなくなったという報せが届きます。それまでいた女学院を放り出されたシャーロットは、無一文になった途端に態度を変えた人間をいつか見返すためにと、伯爵家のメイドとして新しい生活をスタートさせます。まずは順調にメイドとしての地位を上げて行こうとする彼女ですが、伯爵家の跡継ぎのエロールに本性を目撃され、それを材料に脅されてしまいます。

 バーネットの『小公女』を下敷きにしつつも、主人公の少女のけなげさは逞しさに変えられ、ライトノベルとして完全にリライトされたとでも言うべき一作。そのため、バーネットの『小公女』では、女学院でメイドに身を落としてひたすらいじめに耐える生活の描写がが続いていた生活のパートに当たる部分でも、本作の主人公シャーロットはアッサリと学院を飛び出して、自分で道を切り開いてしまいます。
 勿論、それでもなお彼女には身分・階級社会の中で育まれた悪意やいじめが向けられるわけですが、シャーロットのふてぶてしいとも言える性格や、どこまでも前向きな姿勢ゆえに、いじめがいじめとして機能していないようなところもあり、主人公の豪快な姿が読者の目に痛快に映る物語となっています。
 2作目ではメイドの生活から「お嬢様」としての復権を果たしたものの、社交界に出れば「文無し」ということであからさまな嘲りに遭い、再び不屈の闘志を燃やす…というあらすじになりますが、お嬢様として返り咲いても終わりにならない『小公女』の「その先」という部分が楽しめます。
 さらには、父親の死にある人物の思惑が働いている疑惑が浮かんだりと、物語としての広がりが見られます。
 2作通して、やや「もう一人の主役」であるはずの伯爵家の跡取り息子のエロールの影が薄いという面は否定できないものの、「小公女の主人公の性格をこんなにしちゃったら、こういう話になりました」的な面白さのあるシリーズ作品。