J・D・ロブ 『死者のための聖杯 イヴ&ローク28 (ヴィレッジブックス)』

死者のための聖杯 イヴ&ローク28 (ヴィレッジブックス)
 ニューヨークのスパニッシュ・ハーレムの教会での葬儀のミサの最中、司祭が毒殺されるという事件が起こります。ですが、捜査が始まり検死解剖された遺体にギャングの徴である刺青を消した痕跡があったことから、その死者は何年もの間に渡り司祭になり変わっていた別人であることが発覚します。その死体の本当の素性が何者で、そして誰が何の目的で彼を殺害したのか。捜査を進めるNY市警ですが、まさにその最中、やはり宗教指導者が多くの信者が見守る中で、仕込まれた毒を飲んで死ぬという第二の事件が起こりますが……。

 シリーズ28作目を迎える本作では、長年にわたり別人になり変わっていた男の殺人事件が描かれます。そして、担当捜査官であるイヴと、彼女の夫のロークは、それぞれが自身の過去のトラウマを刺激するような人物を事件の中に見出し、悩まされることとなります。
 そして本作において特徴的なことの一つは、犯人のプロファイリング以上に、被害者のプロファイルを明らかにしていく過程が描かれる物語であるということかもしれません。ギャングの刺青を手掛りに、ある時期に姿を消した男が何故名前や姿かたちを変えて舞い戻って来たのかが、少しずつ分かっていくにつれ、彼を殺そうとする動機を持つ犯人たちの姿もまた浮かび上がってきます。
 結末部において対決をする犯人は、決して頭脳派ではないものの、その人物の為に状況をお膳立てした者の狡猾さで複雑に隠された真相により、事件が困難なものになっている辺りもまた面白い点と言えるでしょう。