望月守宮 『無貌伝 探偵の証』

無貌伝 ~探偵の証~ (講談社ノベルス)

 人間のヒトデナシの無貌を裏切った"蜘蛛"は、失踪と列車のヒトデナシ縣手繰津を駆使して、藤京へと破壊の手を伸ばします。辛くもその手を逃れた探偵助手の古村望は、"蜘蛛"からも無貌の配下の"犬"からも狙われる少女、芹を伴っての逃亡を続けます。ですが、望がようやく辿り着いた藤京では、探偵である秋津が去っていました。芹の持つ時間と記憶のヒトデナシ匂色を狙う"蜘蛛"を倒すことを決意した望は、僅かな勝機に賭けるために打って出ます。

 ヒトデナシと呼ばれる怪異がはびこる独特の世界観が魅力のシリーズ5作目。無貌によって顔を奪われた名探偵秋津とその弟子となった古村が、無貌やその協力者たち、謎に満ちたヒトデナシと対峙してきた物語は、本作をもって最終局面へと突入します。
 無貌を裏切り敵対を明らかにした"蜘蛛"は、自らの目的の障害となる秋津らを排除し、芹の持つヒトデナシを手に入れようと画策します。本作はその圧倒的な力の前に無力とも言える、次々に襲いかかる事態に望がどう活路を切り開くのかという、激動の巻となっています。そして、スピーディで起伏に富んだ展開の反面、ミステリ的な要素はこれまでで最も薄い巻であるのは事実でしょう。ですがシリーズを通して一番の山場を迎えた物語は、緊迫感が途切れることなく一気に最終章へと繋がっていきます。
 前作の衝撃的結末からそのまま怒涛の展開に次ぐ怒涛の展開の連続、さらには予想を超えた本書のラストはまさに圧巻と言うべきものです。そうした部分でも、既存のファンタジーにはなかった独特な世界を描いた物語は、本書をもって最高潮に達していると言えるでしょう。
 残り1冊で完結とのこと、この結末からさらにどこへ物語が行き着くのか、否が応にも期待は高まります。