藤木稟 『バチカン奇跡調査官 サタンの裁き』

バチカン奇跡調査官  サタンの裁き (角川ホラー文庫)
 数々の預言を残し、それを的中させた男の遺体が、一年半経っても腐敗しない――科学者の平賀と古文書解読のスペシャリストのロベルトは、バチカンからこの奇跡の調査のために派遣されます。遺体の安置される修道院のあるアフリカの小国に赴いた二人ですが、呪術の儀式による殺人が起こり、さらにはロベルトに死の予言が告げられるなど、不安をあおるような出来事が続きます。

 シリーズ2作目となる本作では、腐敗しない死体、的中する預言、土着宗教の呪術の儀式によるものと思われる生贄殺人など、不可解で魅力的な謎が盛り込まれます。それに加えて、ロベルトが悪魔の罠によって死ぬという不吉な預言が、物語の緊張感を高めます。さらには、その預言に沿うようにして、「呪われた本」を手にしたロベルトの様子が変わって行くことで、預言そのものの物語内での信憑性も無視できないものとなっていくような錯覚に読者は陥るでしょう。こうした魅力的な要素と構成で、本作では前作よりも中だるみ感がなく、読んでいて引き込まれる物語となっています。
 そして本作において、謎を全て現実レベルで納得のいく説明がつけられているかという点について言えば、やや力技な部分も皆無ではないという気はします。ですがそれ以上に、物語そのものの組み立て方の良さゆえに、現実レベルで考えてしまえばリアリティが薄く思えるものについても、作中においては一応の筋の通った説明であると評価できるでしょう。
 また、前作では主人公的なポジションに平賀とロベルトの二人がいることの必然性が薄いようにも感じられましたが、一作目では平賀、二作目の本作ではロベルトと、それぞれのキャラクターを順にスポットを当てたことで、良い形で今後のシリーズにつなげることが出来ているのかもしれません。
 前作に続いて本作でも、個別の事件の中から浮かんできたものが、バチカン内部の闇につながって行くような予感もあり、今後のシリーズ全体の流れに絡むのではないかという期待感が出てきています。