美奈川護 『ドラフィル!2 竜ケ坂商店街オーケストラの革命』

ドラフィル!〈2〉竜ケ坂商店街オーケストラの革命 (メディアワークス文庫)

 竜ヶ丘商店街フィルハーモニー、通称"ドラフィル"でヴァイオリニストとしてコンマスの任に就いた響介ですが、相変わらずドラフィルを率いる車椅子の指揮者の七緒に振り回され続けます。商店街で昔から仲の悪い二人の頑固者と、ストーカーに狙われているかもしれないその片方の孫娘。ロックバンドでドラムを叩いていたものの、バンドの解散で竜ヶ丘に戻って来てティンバニ奏者となった弟と、長年にわたって確執のある兄。ドラフィルでビオラ奏者をする女性が嫌悪する、恋多きジャズピアニストの母親。次の演奏会での新たな曲に向けてドラフィルが動き出す中で、響介と七緒は、商店街のメンバーたちの問題を解決するために走り回ります。そんな中で響介は、彼にかかって来た父親からの「弓を置け、お前にこれ以上、ヴァイオリンを続ける価値はない」という電話に動揺を余儀なくされます。

 前作では七緒に焦点を当て、彼女が音楽と再び向き合うための物語となっていたのに対し、本作では主人公の響介が、それまであった父親の呪縛から逃れて音楽に向き合うための物語となっています。各話で登場する他の登場人物の家族の問題を描くことで、響介と父親の問題にオーバーラップさせるという構成は、最終章で響介の物語を浮き彫りにするという効果を発揮しています。
 ワーグナーの『ワルキューレの騎行』、R・G・シュトラウスツァラトストラはかく語りき』、エリック・サティジムノペディ』第一番「ゆっくりと悩める如く」、『ヴェクサシオン』。これらの曲に絡め、それぞれの家族や人間関係の綾が解き明かされ、そして序章と最終章でニコロ・パガニーニの『ラ・カムパネラ』に絡めた、響介と父親の確執の根が明らかになります。
 本作では、悪魔に魂を売り渡した音楽家ニコロ・パガニーニの『ラ・カムパネラ』と、それを奏でるヴァイオリンという楽器によって、まるで呪いのように人生が変えられた何人もの人間の姿が描かれます。そして、最後にその呪いが解けるような演奏会の結末は、作中で描かれたあるエピソードをなぞることで、響介が壁を乗り越える一番の見どころに説得力を与えていると言えるでしょう。
 著者の中では当初、この物語は前作だけで既に完結していたとのことですが、本書において響介と彼の父親の呪縛の物語を、パガニーニの曲に重ね合わせて「音楽の悪魔」を描いたことは、この物語において大きな意味をもつものだったと言えるでしょう。