倉阪鬼一郎 『赤い球体 美術調律者・影』

赤い球体  美術調律者・影 (角川ホラー文庫)
 メンバーの中に実在しない「不在の一人」を織り込ませたという触れ込みで人気アイドルグループとなったM13。その新局に使われたジャケットの不気味な絵を見た者が、次々に不審な死を遂げたり凶悪な事件を起こします。世の中で認知されることなく着々と進められるこの凶行の背後には、何者のいかなる意図が働いているのか。天才的な美術感覚を請われて事件の捜査に関わることとなった画家の影は、歪んだ呪いを放ち続ける絵画を「視る」ことで、その呪いに戦いを挑みます。

 序盤から中盤にかけては、サブリミナルという手法による犯罪を中心に据えた、オカルト・ミステリ的な展開となりますが、終盤では一気にスプラッタ・ホラーの色合いを強める作品。ある意味、非現実的要素を抑えて、オカルト・ミステリで纏めても面白かった作品ですが、今後のシリーズ展開を見越した第一作として、本作は十分なインパクトを持った作品であると言えるでしょう。
 登場人物も、天才的な芸術感覚と強い意志を持ちながらも病的に線の細い影をはじめ、彼を支える幼馴染の光と明、画廊のオーナーの美島、警察で「特殊な部署」に就いている橋上など、癖の強い登場人物の個性が、既にこのシリーズ第1作から確立しています。
 残虐な描写も多いのでやや読者を選ぶ傾向にはありますが、それだけにスプラッタ描写は凄まじく、絵や音楽に悪意を持って織り込まれた意思により、狂気へと堕ちていく人間の姿に引き込まれます。
 終盤で姿を現す、全ての事件の発端となった人物の登場の仕方も、ホラー作品という特性を生かしたものであり、その人物の不気味な存在感を増すものとなっています。さらには影との因縁が、今後の物語へと続く布石を見て取ることが出来るでしょう。