真梨幸子 『インタビュー・イン・セル 殺人鬼フジコの真実』

インタビュー・イン・セル 殺人鬼フジコの真実 (徳間文庫)
 男女七人を団地の一室に監禁した揚句、殺害した容疑で一度は逮捕されたものの、証拠不十分で釈放された下田健太という男。この男の母親が、単独インタビューに応じるという連絡が入り、月刊グローブ編集部の里佳子は、同僚の井崎と放送作家の吉永サツキとともに、団地に住む下田の母親の元へと出向きます。ですが、のらりくらりとかわす下田の母親ばかりか、「殺人鬼フジコ」との関連を持ちだした吉永サツキにまで、里佳子は翻弄されることとなります。

 『殺人鬼フジコの衝動』、そしてその限定版の付録『私は、フジコ』を踏まえた一冊。
 フジコの叔母で彼女を育てた下田茂子、「殺人鬼フジコ」を再現ドラマで演じることとなったルミこと藤原留美子などが、本書で主人公の里佳子が追う事件の中に見え隠れします。この物語では、下田健太が起こしたとされる殺人事件の真相と共に、フジコの事件の根幹にあったものが、本書によって明かされることになります。
 『殺人鬼フジコの衝動』では、少女時代のフジコが大人になり、転落の一途の人生を辿る負の連鎖をフジコの視点で主観的に描いていましたが、本書では下田健太を巡る事件とフジコの事件の根にあるものが、「証言」という客観的な手法でもって浮き彫りにされます。多面的な視点から淡々と描かれる物語は、やはり『殺人鬼フジコの衝動』と同様に救いはないものの、あの物語で書き残された世界の穴を埋めるものとして、本書はその全てを描き切ったと言えるでしょう。