伊園旬 『問題解決室(ソリューション・ルーム)のミステリーな業務』

問題解決室(ソリューション・ルーム)のミステリーな業務 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
 大学卒業後も定職に就かず、資金が溜まったら海外を放浪するような生き方をしていた主人公の東一俊が、父親が役員を務める会社に就職することになります。ですが初出勤をしてみれば、いきなり子会社であるソリューションワークスへの出向を命じられます。通称・問題解決室と呼ばれるその会社は、経理の久能の他には代表取締役の染屋と、新人である東だけの会社であり、主人公の東は問題解決のプロである染屋と二人で、様々な問題を合法・違法問わずに解決していくことになります。誰一人として持ち出しは困難な状況での社員の個人情報漏えい、会社の財産である資材の盗難の疑い、情報の詰まったパソコンを横流しの疑いがある廃棄会社からの奪還するなど、様々な仕事が舞い込みます。

 『ブレイクスルー・トライアル』では、セキュリティ網をいかにかいくぐって相手の裏をかくかという視点だったのが、本作では「いかにしてセキュリティは破られたのか」「問題をどう解決するのか」という立ち位置に変わります。
 そして、いつまでも自分探しの旅を考えるような、どこか頼りないけれども咄嗟の機微を併せ持つ主人公の東と、腹に一物ある癖者の染屋のキャラクター造形が、本作の立ち位置にはピタリと当てはまり、実に映像化向きで純粋なエンタメ作品として仕上がっていると言えるでしょう。
 大企業の子会社のサラリーマンという、一見すれば様々な制約を受けそうな立場の登場人物たちですが、主人公の東は大企業の社員という身分に大した魅力を感じていない、上司の染屋も様々なルールという縛りをものともしないスタンスを貫きます。彼らが社会的な制約をものともせず、問題解決に当たる姿は痛快であり、ルールを超えたところにある望ましい着地点をもぎ取る姿には、様々なことを感じさせられる部分もある作品です。
 ですがそうした魅力を最大限に生かしているかと言えば、ラストの仕掛けに向けた伏線の回収はややあっさりし過ぎた感もあり、その設定だけでももっと引っ張れたのではないかという印象も残ります。主人公と父親との関係、そして終始得体の知れなかった染屋の隠された一面など、踏み込めば広がりを見せる要素を一気に解決してしまった最終話は、やや展開を急ぎ過ぎたために物語が浅くなってしまったようにも思えます。
 それでも、シリーズ展開がされればエンタメ作品としての安定したクオリティが期待できる作品であることには変わりはないですし、続編を期待したい一作と言えるでしょう。