三津田信三 『のぞきめ』

のぞきめ

 利倉という男が大学生時代のアルバイトで訪れた別荘地で、バイト仲間の一人が巡礼の母娘に出会い、別荘の管理人に何故か禁止された場所へと、全員で出掛けることとなります。そして辿り着いた廃村で怖ろしい体験をした彼らは命からがらに逃げ出しますが、それは始まりに過ぎませんでした。そして、作家となった主人公が編集者時代に聞いたこの話は、ある民俗学の研究者が、学生時代に彼の友人の故郷の村で体験したこととの繋がりがあることが分かります。その研究者が残したノートを手に入れた作家がひも解く、「弔い村」と呼ばれる集落の暗部とは…。

 同じ場所で起こる時代の違う二つの怪異の記録と、それを物語にする作家によって解き明かされる真相。怪異譚を収集していた作家が、時代の違う二つの怪異が同じものであることに気付く導入部から、物語は幕を開けます。
 第一部では、ごく普通の休暇の時期のアルバイト学生が体験する怪異の体験談が語られます。地元の人間である別荘の管理人の不審な態度、廃村になった不気味な村、追いかけてくる怪異。それは、語り手である利倉にとってはまったく未知のものであり、実態が見えないがゆえの気味悪さをもって迫って来ます。この第一部では、著者が得意とするところの、「何かがおかしい」という不気味な違和感や、「何かが潜んでいる」という、そこにある空間への恐怖が実に生々しく描かれます。
 第二部では、民俗学者の男が、学生時代の友人の憑きもの筋である実家へと向かい、そこで遭遇した異様な出来事が描かれます。こうして第二部を、民俗学的な分析が可能な人物の視点にすることで、第一部では「得体が知れなかったもの」の意味を、より明確に提示することになります。ここで描かれるのは、「のぞきめ」と呼ばれるものが生まれるに至った経緯であり、民俗学的な解釈とともに、怪異としてその意味を読者に納得させることに成功していると言えるでしょう。
 その上で、再び作家の視点である終章を持ってくることで本作では、現実レベルに解体できる謎と残る怪異との両者を綺麗に融合させたと言えます。
 これらのことから言えるのは、本作は、説明のつかない怪奇の薄気味悪さを残しつつ、現実寄りに着地したために、「怪談」よりも「物語」寄りの作品となっているということでしょう。
 「のぞきめ」という怪異が、(ネタばれを含むため反転)小野不由美の『残穢と類似する部分もありますが、あちらはどこまでも怪異の根源を探る物語であるのと同時に、それを「怪談」として拡散していくところを着地点とした物語であるのに対し、本作には現実レベルで解き明かせる謎とそうでない本物の「怪異」とが存在し、それを共存させ、融合させた物語であると言えるでしょう。
 作中で、物語の登場人物であり語り手であるところの「作家・三津田信三」が述べるように、初期の「作家三部作」からホラーとミステリの融合を試みてきた著者の、(あるいは通過点ではあるかもしれないものの)ひとつの成果が本書にあらわれているのかもしれません。