恒川光太郎 『私はフーイー 沖縄怪談短篇集』

私はフーイー 沖縄怪談短篇集 (幽BOOKS)
 死を前にした者の前で"弥勒節"を胡弓で弾くという風習のある島での死者との対話。集落に住む靴の紐を集めているらしい"クームン"と呼ばれる不思議な存在との少年時代の邂逅。人を殺してしまったことで、無人島に逃げた男が遭遇した"ニョラ"と呼ばれる生き物が棲む洞窟。沖縄そばを食べようと入った店で出会った老女とチカコという女。不思議な電車に乗った少女時代、そして姉と母が父を殺したという話を聞いた女性が長じて数奇な人生を送り、戦争の後に再び幼いころに出会った電車に辿り着く物語。両親とともに宿泊した島で出会った少女と出掛けた祭りで、幽霊のような気配の男女から<未来の話>をされた少年の物語。島に流れ着いた不思議な力を持つ"フーイー"という女、彼女が産む子どもたち、そして彼女を殺す男との輪廻の物語。
 沖縄という、独特の文化圏の持つ異界感が、著者の持ち味と綺麗に融和した全7編の短編集。
 『南の子供が夜いくところ』では、同じ南国でありながらもファンタジーとしての架空の風土が描かれていましたが、本書においては沖縄という実在の土地に根差した、民話的な風合いの感じられる幻想譚に仕上がっていると言えるでしょう。
 また、怪談といっても、残酷で怖ろしいのはどこまでも人間であり、その全てを飲みこむ怪異はむしろノスタルジックに描かれます。
 特に表題作の『私はフーイー』などは、長編としてじっくり三部か四部構成で描かれていても面白かったという印象がありますが、各編とも、それぞれの話をもっと読みたくなる奥行きを持った作品でした。