閉鎖された温泉施設がスポーツクラブになったり、お草さんの小蔵屋のライバル店のような店がオープンして、小蔵屋に対して嫌がらせめいたことをしかけてきたりと、紅雲町の様子も少しずつ変わってきます。そんな中、詐欺まがいの手口で不動産を買い叩いて取り上げる業者の存在が浮かび上がってきます。
1年間を6話仕立て、隔月で物語が語られ、それが少しずつ繋がりを持った構成が次第に強くなってくる連作短編集。
町にあった古い店が消え、新しいものが出来て、悪質なライバル店が登場する裏で起こっている出来事が、1話毎に見えてくる構成が生きています。
読み進めるごとに、個別であった物語たちの背後にある大きな動きが繋がりを持って感じられ、それぞれが短編として独立したテーマを持っている作品であると同時に、一冊を通して長編としても読める連作短編集としてのつくりですが、最後の結末のつけ方はやや拍子抜けという印象もあります。その理由のひとつには、あくまでも主人公のお草さんを等身大の老女として描くことに徹しているために、彼女自身の力で本書で扱うような大きな問題を解決することが出来ないということがあるでしょう。
その結果、やや消化不良な部分が残るのものの、そのことで逆に物語におけるリアリティを自然に生み出しているという点では、個人的にはこれはこれで好印象。勧善懲悪に基づいた痛快な物語とはまた一味違って、ちょっとした落とし穴にはまってしまう人間の欲と弱さを描いていること、そして人生のやりきれない部分をも知るからこその主人公の持ち味が、前作に引き続き本作でも大きな魅力となっているのでしょう。