伊坂幸太郎 『残り全部バケーション』

残り全部バケーション
 父親の浮気が原因でその日で「解散」をする家族。その父親のPHSに『適番でメールしてみました。友達になろうよ。ドライブとか食事とか』というメールが届きます。「友達が欲しい」という父親は、そのメールに返信をし、相手の岡田という男と家族全員でトライブに行くことになります。

 各編は最後の一編である『飛べても8分』を除けば、ほぼ全てが独立した短編として読めると同時に、それらの裏に繋がる時系列を読むことができるつくりとなっています。さらには、各話が少しずつ繋がりを持ち、そこに配置された伏線が後になって見えてくるという構成部分での伊坂作品らしい妙も生きており、著者の最近の作品としては久しぶりに純粋なエンターテインメントを味わえる一作と言えるかもしれません。
 ある事情から、「解散」する家族の父親にメールをすることとなった岡田と、岡田とパートナーを組んでいた溝口。溝口らを束ねる毒島など、物語の中心となる登場人物は、悪人ではなくとも「悪党」であることは確実な人間ばかりですが、彼らは伊坂ワールドならではの、魅力たっぷりな「悪党」として描かれます。
 車でわざと後続車を追突させ脅して金銭を巻き上げる。誘拐をする。これら、普通に考えれば社会において許されることのない犯罪を犯しながらも、彼らには彼らなりの線引きがあり、時としては虐待を受ける子供を何とかしてやろうと奮闘さえします。後ろ暗いことをしながらも、それを取り繕うことなくどこまでも前向きな登場人物のある種の格好良さは、伊坂ワールドでこれまでにも見られた飄々としてユーモアたっぷりな愛嬌のある、「これぞ伊坂幸太郎」という爽快さを持つ登場人物の姿であると言えるでしょう。
 希望を孕む結末は、もう1ページ、せめてあと1行先が知りたいとドキドキさせられます。