三上延 『ビブリア古書堂の事件手帖4 栞子さんと二つの顔』

ビブリア古書堂の事件手帖4 ~栞子さんと二つの顔~ (メディアワークス文庫)
 乱歩の稀覯本を大人向けのものならすべてを網羅したともいえるコレクションを受け継ぐ人物から、金庫を開けてくれたらコレクションを売っても良いという話が持ちかけられます。金庫を開けるためにコレクション主の人となりを探るうち、栞子の母親の顧客であったコレクション主が抱えていた、家族との問題が浮かび上がってきます。

 シリーズ初の長編の題材は江戸川乱歩
 乱歩のファンであるコレクション主、そして子供向けの乱歩の小説に夢中になった経験のあるその子供たちの人生と、乱歩の古書とが重ね合わされるような物語構成が見事な一作。
 そして、これまでじわじわと存在を浮き彫りにされてきていた栞子さんの母親がついに登場するとともに、彼女の謎も少しずつ明らかにされ、今後にまた上手く繋げた一作と言えるでしょう。栞子さんの母親との確執ゆえに、栞子さんにも良い感情を持っていなかったヒトリ書房の店主も登場し、江戸川乱歩という存在を挟んでその著作に魅せられた幾つもの人生が本作では描かれることになります。
 また本書の見どころのひとつとしては、古書に関する卓越した知識でこれまで数々の事件の謎を解いてきた栞子さんと、彼女のさらに上を行く母親との対決が挙げられるでしょう。書物への知識と駆け引きで栞子さんをはるかに凌ぐ母親に対して、あくまでも「そちら側」への一線を超えることをしなかった栞子さんの姿が印象的な一作でもありました。