海堂尊 『輝天炎上』

輝天炎上
 桜宮の「死」を司ってきた碧翠院桜宮病院の事件から1年。碧翠院桜宮病院の最後に立ち会うこととなった医学生天馬は、東城大のゼミで日本の死因究明制度をテーマにレポートをまとめ上げることになります。同じグループの女子学生の冷泉深雪とともに、東城大では公衆衛生学教室の清川を皮切りに、放射線科の島津、法医学教室、循環器内科教室、そして浪速大学の公衆衛生学教室と浪速の監察医務院、さらには房総救急救命センターの彦根を訪ねて回ることで、死因究明制度とAi(死亡時画像診断)を取り巻く大きな問題点が浮き彫りになります。そして、東城大により桜宮市にAiセンターが設立され、碧翠院桜宮一族の亡霊である小百合の東城大への復讐へ向けた暗躍が始まります。

 同著者の『チームバチスタの栄光』にはじまるシリーズの完結作『ケルベロスの肖像』の裏側ともいえる物語。
 こうした表裏の両面を描いたのは、『ナイチンゲールの沈黙』と『螺鈿迷宮』の時と同じであり、シリーズ本流とは別に、『ナイチンゲール』と『螺鈿』ではじまった物語の続編であり完結編とも言えるでしょう。
 『ケルベロスの肖像』が、Aiセンターの所長になってしまった田口の視点を中心にした、様々な権力構造と思惑の渦巻く物語であるのに対し、本書はそれら表側の権力闘争を斜めから見て、さらには東城大と碧翠院桜宮病院との光と闇の構造を知ってしまった医学生の天馬を中心にすることで、物語世界をさらに立体的に描き出した作品と言えるでしょう。
 医学生という天馬の立ち位置は、同じ医者でありながらも「死因究明制度」というものを前にした際の、放射線科や病理学医、法医学者などに加え、さらには警察や厚生労働省も含めた、異なる立場で勢力図を構築する者たちを俯瞰するものとなります。その上天馬は、桜宮の医療の闇の部分を担ってきた碧翠院桜宮一族との因縁もあり、医学会と司法と政治の世界での闘争、そして東城大と碧翠院桜宮病院、桜宮の亡霊である小百合とすみれの姉妹の因縁の全てを見ることとなります。
 そこには、天馬の視点でしか終わらせることのできなかった物語があり、これまで描かれてきた表側の物語のオールキャストたちに、医学生の天馬というまた別の角度からのアプローチを試みることで、物語世界に決着をつけたという意味合いもあるでしょう。
 そこそこの量になっている著者のシリーズ関連作品を読んでいてこそという部分は、一冊の本として本作を見た際には、これらを網羅していなければ通じない部分があるので、新たに手に取る読者を躊躇させる部分はあるかもしれません。ですが、現実の医療を取り巻く問題を、質の高いエンターテインメントとして多面的に読ませる一連の作品は、手に取る価値のあるものと言えるでしょう。
 そうした単品としては存在し得ないという部分も含め、本書はシリーズの世界に「一応の決着」をつけたものであり、今後も海堂作品で同じ世界を描いた作品が続くにしても、これまでの作品世界の根底にあった大きな因縁については、最後の物語となるのかもしれません。