J・D・ロブ 『残酷なめぐりあい イヴ&ローク30』

残酷なめぐりあい イヴ&ローク30 (ヴィレッジブックス)
 警官の16才の娘が、暴行の末に無残に殺される事件が起こります。調べを進めるうちに、犯人が周到に計画し、被害者に接近したことが判明します。ターゲットに定めた被害者を欺き、その心のうちに入り込むために偽りの自分を自在に作り出す犯人の正体を暴きだすために、NY市警察の殺人課の警部補であるイヴは、チームを作って捜査に当たります。

 本作では、かつて自身も抵抗する術を持たない被害者となった経験を持つイヴが、自身のトラウマと被害者の少女を重ねることで、心の傷とそれを上回る怒りでもって犯人を徐々に追い詰めていきます。
 被害者の恐怖と自らの経験した恐怖を重ね合わせることで、犯行をリアルに脳内に再現し、そこから犯人の詳細な行動と犯人像を描いていく主人公のプロファイリングにより展開していくイヴの捜査手法が、本作で30作目を迎えたシリーズ中でも際立って効果的に描かれます。
 そして、いくつものIDを使い分け、実体を中々つかませない犯人と、地道な捜査とプロファイル的手法で少しずつ迫っていくイヴら捜査陣とが、緊張感を持ったサスペンスを繰り広げます。
 さらには、犯人の姿が明らかになると同時に、「何故彼がそうなったのか」という歪みの根源が描かれます。こうした部分は、理不尽な犯罪の裏に在る、原因−結果のパラダイムが、理不尽なりに物語内でのリアリティを確立していると言えるかもしれません。