鈴木麻純 『ラスト・メメント 死者の行進』

ラスト・メメント    死者の行進 (角川ホラー文庫)

 急逝した写真家が遺した幼い姉弟と、写真家の弟子の女性フォトグラファーとの間にある確執。資産家の老人が自分の死に際して、広大な屋敷のどこかに隠した遺言を見つけた者に遺産を譲ると言ったことで見える親族の人間模様。死んだ恋人の最後のプレゼントを、頑なになっている彼の母から貰いうけて欲しいという依頼。これらの事件の人間模様を、遺品から故人の想いを読み取り、死を題材とした一連の絵画を蒐集する遺品蒐集家の青年が解きほぐすシリーズ連作短編集。

 遺品という「物」を媒介して、そこに残る死者の想いを読み取るという主人公の特殊能力属性は控え目に描かれており、その「能力」を「推理」と置き換えても通る程度の扱いであり、安易な超能力ものの作品にしなかったことは、この作品にとっては幸福なことだったように思います。
 その半面で、歪なまでに「生」に対する嫌悪を抱き、死に魅了される人嫌いな主人公という、ライトノベル的な人物造形については、その人物ごとに若干のムラはありますが、分かりやすく魅力を前面に出したものといえるでしょう。ただ、この「ムラ」が曲者で、ヒロインのポジションにあると思われる、主人公の和泉を強引に引き回す女性カメラマンの彩乃の過剰なまでの押しの強さなどは、やや過剰な印象もあり、読み手によってやや好悪の分かれる可能性も否定できないでしょう。
 ですが、「貴婦人と死」での最後に見せつけられる強烈な悪意を放つ人物などにはシリーズの今後を期待させる部分も多く、相対的にはバランスも良く、リーダビリティにも満ちた作品と言えるでしょう。
 さらには、死を描く架空の画家の絵画を各編のタイトルに持ってきているなど、そのモチーフのちりばめかたは非常に上手く、今後の展開への伏線と同時に、作品を魅力的にしている効果もあるでしょう。