高殿円 『トッカン トッカンvs勤労商工会』

トッカンvs勤労商工会 (ハヤカワ文庫JA)
 「ぐー子」こと鈴宮が勤務する京橋中央税務署で、彼女の上司の特別国税徴収官の鏡が訴えられるという大事件が起こります。そして鏡が強引な取り立てをしたことで夫が自殺をしたのだと言う相手を煽っているのは、税務署の天敵である勤労商工会のお抱え弁護士の吹雪でした。周りをうろつきだしたチワワ似の弁護士の吹雪に気持ちを乱される鈴宮ですが、よりにもよって鏡が留守中に、厄介な案件を引き受けざるを得なくなります。

 シリーズ2作目では、4年目を迎えて自覚を促される鈴宮が、地元を飛び出して以来初めてお盆に帰省して、わだかまりのある父親に会うことを悩んだり、自分より後に京橋中央税務署にやってきた仲間の仕事ぶりを横目にすることで焦りを覚えるなど、彼女自身が一作目以上の成長を求められることになります。
 その一方で、彼女の周りをうろつきだしたチワワ似の弁護士・吹雪の脅威や、何故か鈴宮に振られた案件が思った以上に緊急性の高い悪質なものだったりと、物語を通して緊迫感のある一作となっていると言えるでしょう。
 そして、本作で大きなキーワードとなるのは「体裁」。社会の中で生きていく上で他人と自分を比べ、「体裁」を取り繕うことは現実でも多々あることでしょう。ですが、作中で吹雪は言います。

「体裁って怖いんですよ」
(中略)
「犯罪が生み出される過程は多様にあるが、僕が注目したのは、人がその場しのぎに作った体裁が起こす犯罪の数の多さだった」

そして吹雪は、最大の敵を「国家の体裁」と見なし、国税徴収官が滞納者へ強権を発動することを悪とみなします。
 読者には気持ち悪さを感じさせる吹雪の「正論」ですが、この「正論」を鈴宮はすぐには否定出来ません。それは、彼女が周りの同僚と自分を比べてコンプレックスの塊となっている状況にあり、さらには前作で「法律」をただ杓子定規に振りかざすだけでは駄目なのだと学んだからこそなのでしょう。
 また本作では吹雪だけではなく、個性的な登場人物が何人も登場してきます。こうした新たな登場人物が出てくることで、鈴宮の上司であり、彼女にとっては横暴だけれどもある種「絶対」の存在でもある鏡という人物の掘り下げや、意外な一面を描く事にもなったと言えるでしょう。本作で新たに登場した人物を交えて、シリーズの今後がどう展開されるのかも一層楽しみになった一作。