北國浩二 『ペルソナの鎖』

ペルソナの鎖
 児童誘拐事件の捜査で疑わしい男の取り調べをしていたところ、その男は捜査一課のエースと呼ばれてTV出演もした氷室と二人で話をしたいと、やり手弁護士を通じて伝えてきます。呼ばれて取調室で男と二人になった氷室ですが、その男が昔自分もいじめに加わった相手である土谷だと知り、驚愕します。土谷の卑劣な策略で窮地に陥れられた氷室は、警察内で孤立し、世間からも白い目で見られるようになり、さらには妻子との関係もうまくいかなくなってしまいます。

 冒頭から見え隠れする壮絶な虐待や、氷室の学生時代のいじめなど、事件の背景に関わる要素が序盤から挿入され、効果的に物語の根底を仄めかします。ある種のミスリーディングも盛り込まれながら、現在時制の氷室が追う土谷の事件は、徐々にその複雑な構図を明らかにされていきます。
 物語の始まりとなる、土谷の罠により陥れられる氷室の追い込まれっぷりはこれでもかというほどに容赦がなく、彼の苦悩がまざまざと描かれ、読む側はその理不尽さに憤りを感じさせられます。どこか淡々とした、あくまでも冷静なままの視点を保つ著者の文体と作風は本作でも効果的なものであり、その筆致だからこそ感じさせる暗黒や怒りの深さといったものが確かにあるのでしょう。
 そして最後に明らかになる真相の救いのなさと、付け加えられる救済のバランスも良く、静かで深い読後感を味わえる一作となっています。