ジェフリー・ディーヴァー 『ロードサイド・クロス 上/下』

ロードサイド・クロス 上 (文春文庫)ロードサイド・クロス 下 (文春文庫)
 相手の話す言葉の音の変化や僅かなボディランゲージから「ストレス反応」を読み取り、そこから真実への鍵を掴みとる尋問手法「キネクシス」の専門家のキャサリン・ダンス。彼女のチームに持ち込まれた事件は、車のトランクに女子高生を閉じ込めたまま水没させ、水死させることを狙った残忍な事件で、その被害者が殺害される日付で、道路の道端に犠牲者の追悼をあらわす十字架と花が飾られているというものでした。証人の元へと向かったキャサリン・ダンスは、事件がこの先も続く可能性に気付き、ある事件をきっかけに起こったネット上でのいじめがこの件の裏にある事に気付きます。悪質なネットいじめの舞台となっているサイトの管理者に協力を求めるものの難航するキャサリン・ダンスですが、さらには彼女の母親が陥れられて逮捕されるという事態に悩まされることになります。

 リンカーン・ライムのシリーズ『ウォッチ・メイカー』に登場した尋問のプロフェッショナル、キャサリン・ダンスのシリーズ第2作目。前作『スリーピング・ドール』事件から数週間が経った頃の物語。
 本作においても、登場する関係者、証人や容疑者、キャサリンをの足元をすくおうとする相手などに対し、キネクシスを駆使して解決への糸口をつかもうとするキャサリンですが、前作までの面白さに加え、彼女自身の家族の問題が起こることで、彼女が冷静さを失って歯噛みをするという、シリーズ作品を重ねたからこその、主人公の内面の掘り下げや生身の人間らしい部分への踏み込みも指摘できるでしょう。登場人物の面でも、コンピュータの専門家として新たに登場したジョン・ボーリング、キャサリンの相棒的存在である保安官事務所の刑事マイケル・オニールとの間の微妙な人間関係や、姑息な上司のチャールズ・オーヴァービーとの軋轢なども、今後のシリーズ展開に関わってきそうで期待が高まります。
 そして事件の舞台として、本作では現実の土地だけではなく、インターネット上のコメント欄というサイバーな空間が出てきます。そうした部分は本作が、ネット内だからこそ顕われてしまう人間の残酷な攻撃性と、その結果が現実に顕われた時にどうなるのかという、昨今のある種の社会問題が作品にも反映された作品となっている部分でもあるのでしょう。
 著者らしい終盤での怒涛の展開の面白さも勿論あり、今後益々楽しみなシリーズとなっています。