堀川アサコ 『幻想日記店』

幻想日記店 (講談社文庫)
 迷い込んだ山奥の茶畑で茶葉を摘んでしまった大学生の友哉は、そこの持ち主だという猩子に命じられて、誰かの書いた日記を取り扱う「日記堂」でのアルバイトをすることになります。

 他人の書いた「日記」を読むことで、自分の人生を見つめ直し、新たな一歩を進むきっかけになる。そんな商いをする日記堂の店主の猩子は、これまでの『幻想郵便局』、『幻想映画館』の幻想シリーズの舞台となる場所の主たちよりも、明らかに「こちら側」の寄りの人物であると言えるでしょう。
 そんな彼女の正体が本作のキモでもありますが、同時に『幻想郵便局』に登場した登天さんもまた、思わぬ正体を明らかにしてくれる辺りも、シリーズ読者には嬉しいところかもしれません。
 本作は、どこか謎めいた美女でありながらも、子どものようなところを持った猩子を軸とし、どこまでも等身大の青年でしかない友哉の視点で描かれる物語だからこそ、「幻想」シリーズでありながらも前2作よりも「こちら側」に近い作品になっているのでしょう。
 また、猩子や登天さんの意外過ぎる正体が明らかになることで、本作では何故「日記」なのかという著者の意図が明確になるというコンセプトが、実に分かり易く示されます。
 そして本作は、「日記」というものの本質を幻想シリーズならではの視点で描いた一作と言えるでしょう。ブログのように、日記という体裁を維持しながらも「他人に読まれることを意識したもの」と、あくまでも個人的に綴った文章に過ぎない日記との違いなど、著者のしっかりとした目の付け所の良さを見ることが出来る作品。