三十歳の長男の四寿雄(しずお)を頭に下は中学生まで、男五人女一人の六人兄弟で、生前に預かった故人の遺言を代行する仕事をする藤川家。そこに新たにやってきた、父親の隠し子だったらしい小学生の少女十遠(とお)の出現に、それまで家事を担当していた七重は何だかもやもやとしたものを感じてしまいます。そして四苦八苦しながら兄弟たちと遺言代行をする中で、七重は十遠の漏らした呟きを聞いてしまい…。
いわゆる大家族ものというジャンルに分類されるであろう一作。
生前に心残りになるであろうことを書いて封をした手紙を預け、依頼人が亡くなったという報せを受けた藤川家がそれを代行するのですが、手紙に書かれた内容はどれも情報が不十分で・・・という、連作短編集。
ですが、その遺言代行業という要素はあくまでもガジェットにとどまり、物語の軸は新たに発覚した妹の十遠の存在に置かれることになります。それまでは男五人の中に女一人ということで、家事を一手に引き受けていた七重が、自分よりも手際良く家事を手伝い、しかも気の利いたところを見せる「妹」の存在を、心のどこかで受け入れられずに悩むこととなります。さらには、十遠の意外な側面を垣間見てしまったことで混乱する七重の視点で物語は進められることになります。
つまり、物語全体の軸とでもいうべきものは、あくまでも「家族」であり、その家族の事情にオーバーラップする部分はあるとはいえ、遺言代行の仕事というガジェットについては添え物的な側面が強く、必ずしも十二分に持ち味を発揮することが出来ていない面もあるかもしれません。
また、本書では上記のように七重と十遠に焦点を合わせた構成となっているために、他の兄弟についてはまだ描かれていない部分、あるいは物語中には直接的に登場していない一家の父親など、今後シリーズが展開すれば面白くなるだろう要素もいくつか見受けられます。
どこかで見たような「家族もの」で終わるのか、あるいはそこから一歩踏み出した個性を持ったシリーズとなるのかも含め、今後に期待したい一作。個人的には、単なる「イイ話」で終わらない毒を今後含ませても面白いかなといった印象。