J・D・ロブ 『夜の狩人の絆 イヴ&ローク32』

夜の狩人の絆 イヴ&ローク32 (ヴィレッジブックス)
 殺害された被害者たちを呼び出した人物たちにはそれぞれアリバイがあり、クロスボウや銃剣など、前時代的な武器を使うという共通点を持った連続殺人事件が起こります。夫ロークとの休暇旅行から戻ったNY市警の警部補であるイヴは、早速この事件を担当することになります。殺害された人物を呼び出したと思われる人間をたどるうちに、犯人の歪んだ意図と事件の本質に気付いたイヴは、埋もれていた過去の事件からひとつひとつの事実を掘り起し、犯人たちを追い詰めようと試みます。

 例の如く殺人事件に遭遇するというアクシデントはあっても、ロークの故郷であるどこか長閑なアイルランドの田舎旅行で幕を開ける本書は、冒頭のこの旅行のシーンで物語が挿入されていることで、中盤以降で犯人たちの内面を暴き出すシーンの背景を補強しているという、構成上の妙が冴える一作。
 本書では、他人を見下し、自らを特別な選ばれた人間であるという歪んだ人格形成の末に次々と人を殺す「ゲーム」に興じる犯人の内面が、捜査によって少しずつ明らかになる過程が丁寧に描かれているため、物語における説得力もあると言えるでしょう。