森晶麿 『黒猫の遊歩あるいは美学講義』

黒猫の遊歩あるいは美学講義 (ハヤカワ文庫JA)

 エドガー・アラン・ポオの研究をしている大学院生である主人公は、最年少で教授職に就いた天才、通称「黒猫」の付き人のような役割を任されてしまいます。でたらめな地図の真意、自殺したと思われる学生の死の真相、香水の香りが仄めかす初恋の相手の行動、因縁のある相手の住む寺で消息を絶った女性の安否、映画監督と詩人の間にあった死の真相、書庫で聞こえた歌の意味。これらの謎が、ポオの作品解釈とともに明かされます。

 ポオの代表作をモチーフにした各編は、その作品に対する従来の枠組みではない観点からのアプローチがなされるとともに、主人公らの前に現れる謎とオーバーラップする形で「解釈」されるというつくりになっています。ここで特徴的なのは、本作では謎を「解明」するのではなく、「解釈」することでそこにあることを明らかにしているというアプローチでしょう。
 また、作中で交わされる衒学趣味に満ちた会話が、ある意味現代的なデフォルメを加えられたキャラクターに、実にしっくりと合っている点も、本シリーズの特徴的な点かもしれません。