堀川アサコ 『予言村の転校生』

予言村の転校生 (文春文庫)
 突然奈央の父親が故郷の村こよみ村の村長選挙に出馬すると言い出し、さらには父が村長になることは「決まっている」のだと言います。対立候補の十文字の圧倒的な優勢が伝えられる中、万が一にでも父が当選してしまえば、奈央も父と一緒にこよみ村へ引っ越すことになってしまいます。実は、こよみ村にある「予言暦」というものがあり、村で起こることは未来に渡ってそこに記されており、父親が村長になることも予言で「決まっている」のだと言いますが…。

 ちょっと不思議な世界観や、怖くはないけれども確かに感じるホラーっぽさなど、著者の良い持ち味の出ている一冊。
 本作は、最終的にはミステリ要素の強い現実的な落としどころに着地しながらも、謎は謎のまま残される加減が何とも絶妙な作品となっています。不思議に包まれた「こよみ村」にも、この先何らかの変化が訪れるのは必然なのでしょうが、その変化すらおそらくは、優しい世界観を保ったままのものであるのでしょう。そんな風に思わせてくれるのは、ひとえに作品とそこに生きる登場人物たちの持つ魅力によるところなのかもしれません。
 本書では、中学生の少女が主人公であり、彼女の視点で物語は展開されていきます。この視点が何とも伸びやかで、そして彼女を取り囲む大人たちも、全員とも憎めない魅力を持っています。それは、数々の事件の裏側にいた「犯人」ですらも例外ではありません。
 そんな作品の持つ雰囲気は、「かつて子どもだったあなたと少年少女のため」と銘打たれた講談社のレーベルである「ミステリーランド」の作品群を思い起こさせるようなもので、大人だからこそ楽しめる童話的な世界観とも言えるかもしれません。