辻村深月 『水底フェスタ』

水底フェスタ (文春文庫)
 村長の息子の広海は、村で開催されたロックフェスの晩、地元出身の芸能人である由貴美の姿を見かけます。村の人間とは決して上手くいっていない彼女が戻ってきたことが広まると、多くの人間が彼女の家の周りをうろつき始めます。そんな周囲を冷めた目で見ていた広海ですが、由貴美と接点を持ったことでそれまで知らなかった村の悪しき風習を知ることになってしまいます。村に復讐をするために戻ってきたという彼女の真意はどこにあるのか。

 閉鎖的な村でのローカリズムの汚さを許容しきれない主人公の広海の潔癖さと、彼の若さを嘲笑うかのような現実の汚さ・残酷さがもたらす、絶望と失望に満ちた読後感が強烈な作品。
 纏わり付くような村社会を象徴するかのような母親や幼馴染との関係を厭い、一歩退いて冷めた目で見ているような主人公の広海ですが、それでもどこか村を切り捨てることが出来ずにいる広海と、村を憎む由貴美の結びつきはやがて、歪んだ村社会の姿を想像以上に暴き立てることになります。
 怒涛の展開となる終盤になると、読み進むにつれ物語は、身近な人を信じられなくなる救いのなさと、その先の結末も痛々しさで満たされます。
 結末での広海の決断へと突き落とす絶望が、強烈な余韻を読者に打ち込んできます。