周木律 『伽藍堂の殺人』 

伽藍堂の殺人 ~Banach-Tarski Paradox~ (講談社ノベルス)
 「リーマン予想」についての数学者の講演が行なわれる孤島の中の館、「伽藍堂」に集った宮司兄妹や放浪の数学者の十和田、天才・善知鳥神ら。かつてその施設の所有者である宗教団体の教祖が瞬間移動を見せたという、島にある二つの館、「伽堂」「藍堂」で数学者による講演が行われますが、そこで事件が起こってしまいます。

 シリーズ四作目。
 大掛かりな物理トリックと数学的ガジェットを結び付ける独特のスタイルは確立されていますが、それだけに読者の側からは、序盤からある程度の仕掛けの予断を持って読んでしまう部分はあるかもしれません。それゆえにトリックの方向性やその大仕掛けでのサプライズは弱くなってしまっているものの、緻密な物理トリックの精度は非常に高いと言えるでしょう。
 また、シリーズを通してこれまで物語の根底に潜むフィクサー的な仄めかしをされていた「天皇」と称される数学者・藤衛の存在や、また宮司兄弟や善知鳥神の過去の因縁についてクローズアップされてきており、シリーズ全体の物語の大きな転換期を迎えていることも指摘できるでしょう。
 ただ本作での事件の解決については今ひとつスッキリしない部分も残っているように思います。
 犯人がその人物であるということ自体の是非は別としても、動機面での説得力があまりに弱く、事件が解決したのかしていないのかすら曖昧なように感じてしまいます。