桜庭一樹 『GOSICK BLUE』

GOSICK BLUE
 新大陸へと到着し、移民となった一弥とヴィクトリカですが、移民第一日目にして事件に巻き込まれてしまうこととなります。ニューヨークで流行っているコミック、『ワンダーガール』の作者であるボンヴィアンが、自らの理想であるワンダーガールとそっくりなヴィクトリカと、相棒のリンリンに似た東洋人である一弥を気に入り、彼の祖母が主催するパーティへと二人を連れて行くことになります。ですが、そのパーティが行われている「アポカリプス・タワー」で事件が起こってしまい…。旧大陸からの移民で、一代で財を成した女傑の過去に何があったのか。脅迫者から送られてきたメッセージからその「何か」をヴィクトリカは読み取ります。

 随所に挿入される「ワンダーガール」の物語は、そのモデルとなったボンヴィアンの祖母の過去、そして現在の「ワンダーガール」のヴィクトリカのそれぞれの物語と生き様が次第に対比される中で、少しずつ展開し、そして結末を迎えます。いかにも希望にあふれるかつての「アメリカ」的な物語とその結末ですが、ヴィクトリカによって紐解かれた現実は必ずしもハッピーなだけではなく、一抹の苦さも内包しているのが印象的です。
 ですが、『GOSICK』の本編でもそうであったように、苦い現実や苦難の中にも確かにある、一弥とヴィクトリカの絆と、そんな二人が手にする結末は、ある意味分かり易くアメリカ的な勧善懲悪物語である『ワンダーガール』の物語と並列されることで際立ち、苦い現実を乗り越えた先にあるものだからこそ持ち得る強さを読者に感じさせてくれるのでしょう。
 本書の物語は、二人が大戦を乗り越えて再会を果たしたシリーズ本編のラストと前作『GOSICK RED』の間にあったものを埋める物語でもあり、これから続いて行くだろうシリーズにとっては、一話完結の前日譚といったところなのかもしれません。時系列的な意味での順序的には、前作『RED』よりも本書を先に読んでも良いのかもしれませんが、『RED』を読んだ後でこの前日譚を読むことで、「あれはそういう意味があったのか」という背景が見えてくる面白さもあり、本書を新シリーズの2番目に配置した辺りにも、作者の本シリーズに対する意欲的な意図を読み取ることが出来るように思います。
 作中作である『ワンダーガール』の挿入と、どこか芝居的な登場人物たちの台詞回しが絶妙に絡み合いつつ、『GOSICK』シリーズの良さが存分に発揮された一作。