アイリッシュマンと呼ばれる謎の男と何者かの策謀で、イギリスへのテロ行為が画策されているとの情報を受け、007のコードネームを持つジェームズ・ボンドはセルビアへと潜入します。ですが、そこで相手を追い詰めることに失敗したボンドは、管轄部署が違うがために大幅に活動の権限を制限されるイギリス国内での仕事に苦心することになります。断片的な情報を辿り、ある人物へとつながる糸を見つけるボンドですが、敵だけではなく、味方であるはずの存在たちの足の引っ張り合いやパワーゲームに翻弄されながらも、セルビアで始まった事件はロンドン、ドバイそして南アフリカへと舞台を移していきます。
どんでん返しの魔術師と名高いジェフリー・ディーヴァーが、イアン・フレミング財団の公式のもとに書き下ろした007の物語。
007は映画の中でしか見ていないので、イアン・フレミングの原典を知らないのですが、あまりにも世界的に有名なジェームズ・ボンドというキャラクターの存在感の大きさに縛られている部分が無いとは言い切れないという印象もある1作。
ジェームス・ボンドの粋で洒脱なキャラクターだとかプレイボーイ振りだとかは、原典のイメージを忠実に守りつつも、現代のハイテク技術や世界情勢をキッチリ盛り込んで、その中で生まれ変わった007の姿や、ディーヴァーらしい怒涛のピンチの波状攻撃や裏切り、どんでん返しなども盛り込まれた意欲作ではあるのでしょう。
ただ、ディーヴァーこんなもんじゃないでしょう、と思ってしまうほどに期待値が当然抱かれる作家であるために、本作はやや本領発揮しきれなかったのかな?という印象も。
これまでイアン・フレミング財団が同じ作家に続編やシリーズ化を依頼したことはないようですが、ジェームス・ボンドの家庭事情にまで踏み込んだ面白さはあるので、この過去の因縁を掘り下げる機会があればそれはそれで面白いのかなという気はします。