青崎有吾 『体育館の殺人』

体育館の殺人 (創元推理文庫)
 高校の体育館の不自然に下ろされた幕の向こうで、放送部の部長が殺されるという事件が起こります。密室状態の舞台そでの向こう、体育館で一人になっていた女子卓球部の部長に疑いがかかったことで、偶然にこの事件を担当した刑事の妹で卓球部の柚乃は、部長の嫌疑を晴らそうと、テストで全教科満点を取った学内一の天才で、学校内に住んでいるという噂の人物に相談を持ちかけることになります。

 第22回鮎川哲也賞受賞作にして、著者のデビュー作。
 本作は鮎川哲也賞の名を冠するにふさわしく、小さな事実の積み重ねの上に推論を積み重ね、最終的に解決へと辿り着くという、直球の本格ミステリであると言えるでしょう。また、序盤で構築された事件の真相(と思われるもの)への道筋がいったん頓挫し、欠けていたピースが現れることで一気に解決へと突き進み、最後に「読者への挑戦」が挿入されるという物語の構造もまた、実にオーソドックスな本格ミステリとしての楽しみを感じさせてくれるものでした。
 そして、事実確認から導かれるロジックの緻密さに加え、古典的な名探偵ならではの「変人」具合を現代的にアレンジした探偵役のキャラクター造型などにより、上手い具合に軽妙さを加えている面もあるのでしょう。
 また、事件解決後のエピローグも、どこか残っていた違和感を全て払拭するだけの論理性の上に描かれており、印象的な結末の演出となっています。