知念実希人 『優しい死神の飼い方』

優しい死神の飼い方 (光文社文庫)
 人間たちから「死神」と呼ばれる存在が、上司の命令で地上で死を前にした人間たちが未練を残すことなく、死後に「我が主様」のもとへ魂としてのぼって行けるようにと、犬の姿で派遣されたレオ。看護師の菜穂に保護され、人生の最後を迎えようとする患者たちのいるホスピスでレオは、戦争中の悲恋に囚われたままの男、借金苦の挙句に人を殺して宝石を盗む決意をした男、絵を描けなくなった画家といった患者たちの過去を解きほぐすことになります。

 冒頭、プロローグでのまだ名前の無いレオの自己紹介と、エピローグでのレオの自己紹介の対比が深い余韻を残す一作。
 本作では、かつて殺人事件のあった建物を買い取った「丘の上病院」を舞台に、その土地に不思議な因縁を持つ患者たちの過去がレオによって明らかになり、それらがひとつながりになった時に過去の全ての真相と、現在起こりつつある事件が姿を現すことになります。
 些か出来過ぎではないかというほどに良くできた物語は、レオという超常的な存在によって実に綺麗な連作短編集として構成されます。
 軽妙なタッチで描かれるレオというキャラクターと、それぞれの事件の意外な真相、さらにエピローグでこの物語を読んできた読者の感情を揺さぶる演出など、文句なしに楽しめる作品でした。