岡崎琢磨 『道然寺さんの双子探偵』

道然寺さんの双子探偵 (朝日文庫)
 九州にある道然寺には、住職である父親の真海とその息子の一海、そして十四年前に捨てられていた双子が暮らしています。双子の片割れのレンは「寺の隣には鬼が済む」、もう一方のランは「仏千人神千人」を信条としていました。寺の納骨堂の周りにいた双子の同級生の行動の意味、身内だけで行われた通夜で紛失した香典、老舗の梅ヶ枝餅屋の少女の不可解な様子、水子供養を頼みに来た女性が妊娠した時期が合わない理由、交通事故で亡くなった女性の事情とは。人への見方が全く逆の二人は、それぞれの視点から道然寺の周りで起こる、これらの不可解な事件を解き明かすことになります。

 『珈琲店タレーランの事件簿』の著者の描く新シリーズ(多分シリーズ化が前提になってるはず)。
 地方の小さなお寺を舞台に、性善説性悪説それぞれの視点から事件を見る双子を謎解き役にあてた物語。人間を悪で見るか、善で解釈するかでまったく変わってくる事件の本質への解釈を、双子がそれぞれの視点から推理することで真相が明らかになる――片方の解き明かした推理に、別の視点からの推理を重ねることで思わぬ真相をつまびらかにするという物語の構造をパターン化することで、シリーズとして綺麗に成立した一作。事件は各話ごとに、最終的にはレンの見方が正しかったり、ランの見方が正しかったりしますが、これらの物語の語り手たる視点を、性善説性悪説のどちらにもニュートラルな一海に任せることでうまくバランスを取った作品となっていると言えます。
 最終話の双子の出生にも関わる物語は、今現在幸せであっても親に捨てられたという鬱屈をどこかに抱えた彼ら双子と、彼らを見守る一海らの家族の物語としても読み応えのあるものとなっています。