堀川アサコ 『小さいおじさん』

小さいおじさん (新潮文庫nex)
 市役所の建設課に努める千秋は、ある日給湯室で黒田節を歌いながら踊る、着物姿の小さいおじさんを見てしまいます。そんな中、もともとは市の篤志家であったらしいおじさんゆかりの公園に作ったゴミ処理場移転に伴う再整備のため、買収をしたい土地の地権者との折衝を任された千秋は、その家でかつて起こった殺人事件の真犯人を探すことになります。

 再整備を計画している公園に、かつてゴミ処理場を作ってしまった市長に大して恨みを抱いているために、市役所の別棟に住みついている「小さいおじさん」は、言ってみれば怨霊であるはずなのに、何故かコミカルで憎めない可愛らしさがあります。
 この「小さいおじさん」という、本来怖ろしいはずなのに何だか愛嬌のあるファンタジックな存在に対して、主人公の千秋たちが真相究明をすることとなる地権者の家で過去に起こった殺人事件は、何とも苦く救いのないものになります。コミカルでファンタジックでありつつも、ドロドロとした人間模様というこの対比とバランスが、本作を軽妙なテイストの中にも、どこかセンチメンタルな読み味を感じさせる作品に仕上げているのでしょう。
 孤独な人にしか見えないというおじさんと、主人公の千秋との最後のシーンが、ハッピーエンドでありつつもほんの少し切なくて印象的な一作。