三津田信三 『十二の贄 死相学探偵 5』

十二の贄  死相学探偵 (5) (角川ホラー文庫)
 施設から莫大な資産を持つ大面家に引き取られた中学生の悠真は、当主だった幸子の遺言状にもとづき、山奥にある墓所に隠された遺言状を取りに行かされます。そこで彼を追って来た不気味な影の正体とは。そして相続人たちが互いに殺し合いでもすることを期待するかのような遺言が公開されると、悠真は何者かに誘拐され、屋敷では殺人が起こってしまいます。

 死が迫っている人間に死相を見る能力を持った「死相学探偵」弦矢俊一郎のシリーズ5作目。
 冒頭の、悠真が一人深夜の墓所へ行く場面などは、著者のお得意の「何かがいる」怖さ満載のホラー感たっぷりな展開なのですが、俊一郎らが連続殺人を止め事件を解決するために乗り出して以降は、どちらかと言えばミステリ要素強めの話運びとなります。ただ今回に関しては、このホラーとミステリのバランスがいまひとつちぐはぐな印象があり、また俊一郎らの宿敵として存在が仄めかされる「黒術師」の要素が果たしてこのエピソードに必要だったのかと言えば、若干疑問の余地はあったようにも思えます。
 また、冒頭からの不気味な雰囲気と、俊一郎らが登場してから突然展開するコミカルな会話とがどうも噛みあっていない印象もありました。
 要所要所でインパクトのある怖さや禍々しさという部分で著者らしい良質なホラーを楽しめますし、犯人を絞って行く推理の過程も解かり易いのですが、真相の部分で呪術や怪異、あるいは全能の悪役であるかのような黒術師という存在が、都合よく使われ過ぎている感じを受けてしまうのは、やや残念。