岡崎琢磨 『珈琲店タレーランの事件簿 5 この鴛鴦茶がおいしくなりますように』

珈琲店タレーランの事件簿 5 この鴛鴦茶がおいしくなりますように (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
 理想のコーヒーを求め、聡明な女性バリスタ美星のいる珈琲店タレーランに通うようになったアオヤマ。彼が珈琲に傾倒するようになった裏には、孤独だった学生時代に出会ったある年上の女性の存在がありました。

 これまでは語り手であり、事件からは一歩引いてあくまでも狂言回しであったアオヤマ自身の過去と、彼の人生を決定づけた女性が描かれる連作短編集。
 2話、3話…と進むうち、だんだん物語が陰りを帯びて、アオヤマの初恋の人だった女性の源氏物語へと重ねられた真意が徐々に姿を現します。これまでのシリーズ既刊作品の中でも、毎回コーヒーのような苦さを含んでいた物語は、本作では初恋の思いでの甘さから、どうしようもない苦さへと変わり、そして結末を迎えることになります。タレーランの"良いコーヒーとは、悪魔のように黒く、地獄のように熱く、天使のように純粋で、そして恋のように甘い"という名言をなぞるかのように、アオヤマの初恋の思い出とその女性の想いとが変化していく物語。