加納朋子 『トオリヌケ キンシ』

トオリヌケ キンシ (文春文庫)

 「トオリヌケ キンシ」の札の先にある家に住んでいたクラスメイトの女子と仲良くなった少年。高校に入ってから不登校が続いて引きこもってしまった彼のもとに、その少女がやってきます。(『トオリヌケ キンシ』)
 ものの「形」を見つける事には特化した超能力とも言えるような能力を発揮する女子高生。幼いころは母親にこ「天才ではないか」と思われたこともあったものの、他はまったく平凡でしかない彼女の能力を、高校の生物教師は「共感覚」ではないかと言われます。十年後、結婚した彼女は思わぬトラブルに巻き込まれ…。(『平穏で平凡で、幸運な人生』)
 子どもの頃、ある時から優しかった「おかあさん」が別人のようになってしまったトラウマを持つ少年。大学生になって、言葉に出せば同じ音ではある「お義母さん」がまたひょんなことで豹変するのではないかと恐れ、関係が上手くいかない彼は…。(『空蝉』)
 人の顔を識別することが出来ない「相貌失認」という障害を持つ少年。同級生の少女から告白され、交際をはじめますが…。(『フー・アー・ユー?』)
 整形外科に通う主婦が、奥さんを亡くした老人から「家に座敷童がいる」という相談を受けますが…。(『座敷童と兎と亀と』)
 病気にかかって受験に失敗し、部屋から一歩も出れなくなった少年。自分が見る夢を明晰夢ではないかと思い、ノートに書きとめますが、その話をした友人の言葉は…。(『この出口のない、閉ざされた部屋で』)

 他人には理解され難い悩みや困難の中、ふとした視点の転換から奇跡のように新しい道が見えてくるという全6編の短編集。
 人生の中で袋小路に行き当たってどこにも行けなくなったかのように思っても、思わぬことで抜け道はある、その先に見えてくる世界の姿というのは優しいものなのだという、著者の暖かいまなざしとメッセージに溢れた作品集となっています。
 著者自身が病気を乗り越えた経験も大いに生かされた1冊なのでしょう。